▼1985年に公開されたテリー・ギリアム監督の映画「未来世紀ブラジル」はコンピューターによる超管理社会をブラックユーモアたっぷりに描いている。鬼才と評される監督の作品でも特にファンが多い

 ▼前橋市が「スーパーシティ」を目指すと聞き、最初に思い出したのはこの作品だった。人工知能(AI)やビッグデータを活用した先端都市の中身がイメージできず、SF的な冷たい社会が浮かんだ

 ▼国家戦略特区の申請に向けた昨秋の検討会の席上、想像が思い違いと知った。マイナンバーカードや顔認証技術を用いた独自の「まえばしID」発行についての説明だ

 ▼「昔は顔認証だったんですよ」と、元米アップル副社長で日本通信社長の福田尚久さん(吉岡町出身)。地域のつながりが密だった時代、客は顔なじみの店ではつけ払いで買い物をした。再び誰もが顔パスでサービスを受けられる社会を思い描く

 ▼コロナ禍の社会は迅速な給付金支給や休校期間中のオンライン授業、テレワークなどに十分対応できなかった。デジタル化は急務だろう。だが、いくら便利になろうと高齢者や情報弱者が恩恵を受けられない血の通わないシステムでは困る

 ▼申請に向け市は事業内容を詰めている。指定の可否が決まるのは春。鬼才の作品とは反対の、温かなデジタル社会を見てみたい。