▼群馬、新潟県境にまたがる日本百名山、巻機山(1967メートル)の山頂に立てなかったという人の話を何度か聞いた。理由は天候ではない。山頂手前にあるニセ巻機を頂上と勘違いし、気づかず下山したり、気持ちが折れて引き返してしまうらしい

 ▼目の前にある斜面の上は山頂かと期待し、やっと登りきると目的地ははるか遠くと知ってがっかりすることがある。偽ピークといい、登山ではよくある体験だ

 ▼それでも気持ちをつなぎとめて、繰り返し登りと落胆を越えていくのは、苦労の後に待つ景色に加え、行く先を示す地図と歩行時間を計算した行程表があるからだろう

 ▼11日を期限としていた4都府県への緊急事態宣言は延長と2県追加が決まった。酒を提供する飲食店などに休業要請し、短期集中でウイルスを抑え込もうとしたものの十分な効果は上がらなかった

 ▼「必ず改善させる」「もうひと踏ん張り」と言われ、対策の中身は大差ないまま3度の宣言と延長を繰り返してきた。いくつもの偽ピークを越えてきたが、この山は一向に頂が見えてこない。一歩ずつ、懸命に急斜面を歩いてきた事業者や国民から嘆息が漏れる

 ▼心配なのはリーダーが地図も行程表も持ち合わせていないように見えることである。「方角や時間は分からないが、もう少し我慢して歩けばたぶん頂上だ」と。掛け声だけではもうこの山を越えられる気がしない。