私が勤める桐生市の機屋(織物メーカー)、桐生整染商は、国内外のアパレルブランドのための服地用織物をデザインしながら製造しています。昨年からシルクに特化したライフスタイルブランド「SILKKI」を始め、自分たちで織ったシルク生地で洋服や雑貨を製造し、販売しています。このブランドを通じてシルクの心地よさや桐生の文化の魅力を身近に感じてもらいたいと考え、会員制交流サイト(SNS)などで発信することも始めました。

 神奈川から移住し、桐生に就職してから丸7年がたとうとしています。楽しくてあっという間でした。自分に合った環境だなと思う理由の一つに、繊維業の、ひいてはこの街に根強く息づく「アナログ文化」があります。

 まず、機屋の仕事ではいまだにファクスを使います。最初は少し驚きましたが、働き始めると納得のいくシステムでした。メールよりも職人さんと共有しやすく効率がいいのです。ファクスだけでなく、紙や布、糸など実物を通した確認が必要で、実寸の生地のスケッチや柄の全体図、色合いの微妙な差、生地の風合いなど、クライアントの要望に最大限近づけるための細かな確認はスクリーン上では行えません。

 布を製造する機械自体が古いため、アナログにせざるを得ない状況もあります。電子で動く最新の織機に比べると、古い織機は織り始めるまでに手間がかかりますが、実はこの機械も大切な存在です。群馬県は雷が多く、電子の織機は落雷で故障する可能性があります。メカ(歯車)で動く古い機械は壊れても部品があれば大抵直り、100年近く同じものを使っているメーカーが多いです。そしてどんな機械であっても最終的に動かすのは人の手。機械や糸は湿度と温度によって状態が変わるため人の手による微調整が必要で、それは決してデジタル化できない感覚の領域です。

 今でも繊維業が多く残っている影響なのか、桐生にはそうしたアナログ文化が街全体にもたくさんあると感じます。例えば古い家が受け継がれていたり、着物を着る人が多かったり、月に1度骨董(こっとう)市が開かれている風景を見た時にも実感しますし、個人事業主が多いことも影響しているのではないかと思います。総じて職人の街。アナログ文化を大切にしたいというスピリットが街中に存在するのです。

 急速に進むデジタル化社会の中でも、桐生では昔懐かしいアナログ文化が元気に息づいていて、「それでいいんだよ」と優しく包み込んでくれる空気があります。その空気感に何度心を救われたか分かりません。私はそんな桐生の街にとても心を引き寄せられています。1年間、私なりに思うこの街の文化やシルクの文化、繊維業の魅力についてお伝えしたいと思います。

 【略歴】国内外の大学でテキスタイルを学び、桐生市の織物メーカー、桐生整染商事に入社。シルクに特化した自社ブランドを立ち上げた。川崎市出身。多摩美術大卒。

2021/11/29掲載