▼映画にもなった『この世界の片隅に』は広島県呉市を舞台に、戦時下の日常を描く。主人公のすずさんは絵を描くことが大好き。ある企画展で1人の女性が描いた絵手紙を見て、映画を思い出した

 ▼中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」で開催中の「語り継ぐ戦争」でのこと。同町出身で千葉県に住む鈴木ひでさん(94)が戦中戦後の体験を柔らかな水彩の絵と文字で表現する

 ▼戦中戦後、食料や生活必需品は不足した。行列の光景には〈老人と女と子どもばかりの配給です〉と文字を添える。夜中の空襲警報で跳び起きた場面もある。〈死んでもいいからこのまま布団の上にいたい〉

 ▼ひでさんは59歳の正月から、安中に住む姉に宛てて毎日1枚ずつ絵手紙を出した。20年続き、7千枚を超える。姉が亡くなった後、ひでさんの手元に戻っていた絵手紙が同館に寄贈された

 ▼中島飛行機に動員されたこと、前橋空襲の被害も体験に基づき描いている。〈風呂に入らずしらみだらけの娘たち〉は18歳の頃のこと。戦争体験だけでなく、幼少期の出来事や戦後の暮らしの変化も分かる。山口通喜館長は「民俗学的にも貴重」と話す

 ▼大好きな絵を誰にとがめられることなく、当たり前に描ける日常をつづったのは1998年の終戦の日の絵手紙。企画展は23日までだが、月内にも常設コーナーで展示が始まる。