「カラスは黄色を嫌う」といううわさがあるが本当か?ホームセンターでカラス対策品のコーナーをのぞくと、防鳥ネットなど大半の製品が黄色である。この光景を見ればあたかも効果がありそうだ。

 しかし、残念ながらカラスが黄色を嫌うことは考えにくい。私は20年近くカラスの生態を研究しているが、黄色の対策品の隣で羽繕いをしてくつろぐカラスを何度も目撃している。カラスにも個性があり、黄色が好みではないカラスもいるかもしれないが、近づきたくないほど嫌悪することは考えにくい。われわれの服の色の好みと同程度と考える方が自然だ。

 では、そのような都市伝説はなぜ生まれたのか? そのきっかけは、カラス研究で有名な宇都宮大の杉田昭栄名誉教授が開発に関わったごみ袋だと私は推測している。何を隠そう、杉田名誉教授は私の師匠で、間近でごみ袋の開発や「黄色が嫌い」説の生まれる過程を見てきたのだ。

 カラスはわれわれが認識できない紫外線を認識できる。カラスが物を見る上で紫外線は重要で、紫外線がない光環境下では物をうまく識別できないと私たちの研究が明らかにした。この生理的な特徴を利用して開発されたのが、紫外線をカットする顔料が練り込まれたごみ袋である。半透明のためヒトには中身が見えるが、紫外線を透過しないためカラスには中身が見えないという理屈だ。実際に、通常の半透明のごみ袋では中身の餌をピンポイントで突いていたのに対し、開発されたごみ袋では当てずっぽうで突いていた。実はこのごみ袋は、顔料のせいでヒトには黄色く見える。メディアにも取り上げられ、見た目から「黄色いごみ袋」として紹介された。

 「黄色いごみ袋」はいくつかの自治体で採用され、ごみ荒らしの被害が減るなど成果を上げた。ところが、これの見た目をまねた、紫外線をカットしない「ただ黄色いごみ袋」が多数販売された。そして厄介なことに「ただ黄色いごみ袋」も、使われ始めた初期の段階では被害が減ったのである。当時、黄色のごみ袋は珍しく、警戒心の強いカラスを用心させるには十分だったのだ。晴れて「カラスは黄色が嫌い」説が誕生した。当然のことながら、「ただ黄色い」だけでは袋の中身が見えるのですぐに効果はなくなる。しかし、数年がたった今、カラス対策コーナーは黄色で埋め尽くされている。

 近づきたくないほど嫌いな色があるなど、冷静に考えれば変だと疑いそうな話だが、カラスに困ってわらにもすがる思いの方であれば、信じてしまうこともあるのかもしれない。実際、黄色のかんきつやトウモロコシをおいしそうに突くカラスを見たことがあるヒトも多いはずだ。経験に照らして疑う気持ちを持つことの大事さをカラスは教えてくれる。

 【略歴】鳴き声でカラスの行動を制御する製品などを提供するCrowLabを設立。ふん害や食害といった対策を全国で手掛ける。宇都宮大特任助教。桐生市出身。

2021/11/30掲載