▼思いもよらない組み合わせに驚かされた。九州大(福岡市)の研究チームが、蚕を使って新型コロナウイルスワクチンの候補となるタンパク質を作ることに成功したという(6月27日付本紙)

 ▼新型コロナの遺伝子情報をもとに、大学で飼育する蚕で確認した。今後、マウスを使った実験を経て、製薬会社と連携して臨床試験を始める予定だ

 ▼蚕糸業は苦境にある。その一方で、先端技術によって養蚕の復興を図ろうという産学官連携の取り組みが群馬を中心に各地で広がっている。ワクチン開発もその一つと言えるだろう。蚕がもつ可能性の大きさを改めて実感する

 ▼とりわけ期待されているのが遺伝子組み換え蚕の利用だ。20年前、世界に先駆けて日本で開発された組み換え技術を応用することで、高機能シルクをはじめ、医薬品、診断薬の生産につなげる試みが着実に成果を残している

 ▼さらに化粧品、工業分野など多岐にわたる活用の研究が急速に進められる。これを可能にしたのは、古来の技術革新、基礎研究の蓄積があったからだ

 ▼蚕に「天の虫」の文字をあてた理由として、「天が授けてくれた虫」と受け止めた養蚕農家の心が想像できる。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録に加えて今、新たな産業をも創出させようとしている蚕の潜在能力を前にして、同じことを思う。