▼日がたつにつれ、伝えられたものの重みが増すのを実感する。映画監督の大林宣彦さんが10日に82歳で亡くなってから、これまで見た数多くの作品を思い返した
▼最も強く記憶に残っているのは、やはり郷里の広島県尾道市を舞台とする「尾道3部作」である。その第1作『転校生』(1982年公開)に出合ったときの驚きは忘れられない
▼思春期の男の子と女の子が入れ替わる異色の青春ドラマ。躍動感あふれる演出に加えて印象深かったのは、古い街並みが残る海辺の都市の、穏やかな日常の風景だ。何度も映し出される坂道や石段、屋根瓦などを見ているだけで豊かな気持ちになった
▼十数年前、高崎映画祭に招かれた大林監督が舞台あいさつで、街づくりでは古いものを取り壊すのではなく、「街残し」「街生かし」に力を注ぐべきだと熱弁するのを聞いた。その言葉で、映画のなかの、飾り気のない街のたたずまいに込めた強い思いに触れた気がした
▼その少し後に出版された『ぼくの映画人生』(実業之日本社)で監督は、「とても幸福な映画」づくりだったとして、こう振り返っている
▼〈観光絵葉書のような絵ではなくて、ぼくが子供のころさびしんぼう少年で一人さまよった路地裏、(略)日差しのぬくもり、風のそよぎ…(略)そういうものだけを撮ろうと思ったのです〉と。