▼小説家の主人公と活発で美しい友人の妹。やがてひかれ合い、結婚を誓った二人の運命を変えたのはスペイン風邪だった。武者小路実篤が1939年に発表した小説『愛と死』だ

 ▼高校生の時に読み、あまりの急展開に衝撃を受けた。同時に当時はよく知らなかったスペイン風邪への何とも言えない恐怖を感じた。武者小路自身が二人に与える運命に涙をこぼしながら執筆したという逸話も覚えている

 ▼スペイン風邪は第1次世界大戦中の1918年に始まったパンデミック(世界的大流行)。世界の死者は推計で4000万~5000万人ともいわれる。現代の危機を目にした今、1885年生まれの武者小路の心にいかに深い爪痕を残したかは想像に難くない

 ▼新型コロナウイルスの感染者は世界で200万人を突破し、群馬県でも100人を超えた。安倍晋三首相は16日、緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大することを表明した

 ▼〈人類はどんなことがあっても、それを生長の糧にする力をもっている〉。武者小路は小説『幸福者』で人間の生死や愛、真理に触れ、こんな言葉を残している

 ▼今は終息の兆しが見えないが、この暮らしの中にも変わらぬ幸せはあるはず。ウイルスとの戦いを通じた生活や働き方の変革も後々まで役立つ財産になるだろう。少しでも多くの糧を見いだしたい。