▼「私たちの当たり前が当たり前ではなくなった」―。犯罪、災害の被害者の実名報道をテーマにした会議での発言に思わずうなずいた。インターネットの普及を背景に人権意識が高まる中、実名報道への逆風が吹いていると感じる

 ▼92分の30。台風19号の犠牲者で氏名が公表された人の割合である。犠牲者が出た13都県のうち、群馬を含む9都県が非公表とした結果、62人が死亡した事実を匿名で公表された

 ▼各都県が匿名にした理由は「個人情報の保護」「遺族の同意がない」など。実名、匿名の判断を国が自治体に委ねる中、本県は先月、氏名公表に関する独自の基準を初めて作成した

 ▼基準は実名報道の必要性を認める一方、家族の同意を条件とした。「公益性と家族の権利を勘案しながら決めていく」(山本一太知事)方針だという

 ▼本紙を含め報道各社は県に実名で発表するよう申し入れた。課題や教訓を伝えるため、数ではなく生身の人間が亡くなった事実を社会全体で受け止めるために必要との考えからだ。遺族と最初に接触する行政が意向を確認する際、実名報道の意義を伝えて理解を求めるという報道機関が行う手順が徹底されないのではないかとの懸念もある

 ▼実名報道に対する世間の認識とのギャップを埋めるため、その意義と目的を丁寧かつ粘り強く訴え続けていきたい。