▼明治の実業家、渋沢栄一は「士魂商才」という言葉を好んだ。武士の精神と商人の才能を兼ね備えるというこの言葉を旧箕輪村(現高崎市)出身のテニス選手、清水善造(1891~1977年)は現在の一橋大で渋沢から学び、処世訓と捉えた

 ▼ウィンブルドン選手権に日本人として初出場し、オールカマー決勝(現在の準決勝相当)に進出。日本が初参戦した国別対抗のデビスカップでも決勝で米国に迫った

 ▼相手が転倒して得点を奪える絶好機に、起き上がって打ち返せるように「やわらかなボール」を返した逸話も残る。まさに士魂か。大会は商社勤務のかたわら。後に取締役まで務め、商才も秀でていた

 ▼同市の清水善造メモリアルテニスコートでITF女子ワールドテニスツアー「高崎国際オープン」が13日から2週連続で開かれる。賞金総額は各週10万ドルで同ツアー最高グレードだ

 ▼クラブハウスでカフェを営む高木香保さん(49)は「清水善造を朝ドラにする会」を立ち上げた。貧しい農家に生まれ、高崎中学までの徒歩通学と毎日の牛乳配達、鎌での飼料用草刈りが後のプレースタイルや成績につながった人生に「どんな環境でも努力すれば夢はかなえられる」というメッセージ性を見る

 ▼活動は緒に就いたばかり。行政を巻き込むことなど課題は多いが、NHK大河ドラマになった渋沢に続けとばかりに、清水のようにこつこつ努力する。