▼黒い被写体を撮影する難しさを実感した。カメラを向けたのは、国鉄時代の代表的な黒貨車「ワラ1形」である。貴重な製造番号「1」の車両がJR四国から中之条町に寄贈され、六合地区の産業遺産「旧太子(おおし)駅」で展示が始まった
▼現役時代を知らないが、実物は想像以上に大きい。それが何両も連なって鉄路を行く様は、さぞ迫力があったことだろう
▼1万7367両が製造されたものの大半は処分され、公的機関に保存されているのはわずか2両。金沢市内の公園に置かれたものは改造され、原形を保つのは今回の寄贈車両だけだ
▼最後の1両も香川県内の工場の大規模改修に伴って行き場を失った。鉄道ファンが心配する中で救出に動いたのが、寄贈の調整役を務めた笹田昌宏さん(52)。本業は医師だが、鉄道の本を出すほどの愛好家である。廃車両を譲り受けて所有する「持ち鉄」という
▼解体されそうな車両があれば引き受け先を探す活動をしており、今回も鉄道博物館など30カ所近くと交渉した。「学芸員は『価値は分かる』と言ってくれた。でも場所と費用の面で折り合えなかった」。ワラ1は辛うじて安住の地を見つけたが、人知れず姿を消した車両がどれほどあったことだろう
▼寄贈に当たりJR四国は車体を再塗装してくれた。見た目は地味だが、輸送力向上の立役者だ。本物が残り、間近で見られることに大きな意味がある。