生シイタケやナメコなどの菌床栽培に使用される広葉樹のおが粉(おがくず)が不足し、価格が倍近くまで高騰して県内のキノコ生産者の経営を圧迫している。木材の切り手不足や、東京電力福島第1原発事故による影響で伐木量が減少する中、おが粉が国が推進する木質バイオマス発電の燃料として、大量に使われていることが一因とみられる。群馬県は生シイタケが全国5位、ナメコは同7位の生産県。関係者からは、おが粉の適正な流通販売や林業支援を求める声が上がっている。
「値段は昔の倍近く、そもそも欲しい量が手に入らない。キノコを作れずやめる農家も増えている」。高崎市内でナメコを年間600トン生産する農業生産法人きのこの里吉井の山崎裕史副社長(45)は話す。現在、おが粉は1立方メートル当たり1万円以上に高騰。2019年に比べ年間260万円ほど出費が増えた。
夏ごろから発注しても必要量を確保できない状況が続いており、県外からかき集めてぎりぎり生産を維持している。山崎副社長はバイオマス発電に理解を示しながらも、針葉樹だけでなく広葉樹まで使われてしわ寄せが及んでいると指摘。「おが粉の需給バランスが崩れた。バイオマス推進で農林業が衰退してしまったら本末転倒だ」と訴える。
ただ、おが粉業者も経営は苦しい。少子高齢化や低賃金などで林業の担い手が減少して伐木が難しくなり、さらに電気代や燃料代が高騰。桐生市で伐木からおが粉の製造運搬まで手がける金子林産の金子敬社長(73)は「伐木する社員はいなくなり、電気代だけで年800万円増えた。現状が続けば廃業しかねない」と吐露する。
昨年、おが粉の販売価格を1割上げたが、県内外から求める声は後を絶たず、新規の申し込みは断っている。大型の製造機があり、木材があれば県内生産者の需要に応えられるとしながらも「木材がないのでどうしようもない。木材を集め、県内の農家に優先的におが粉を配る仕組みを整えられないか」と模索する。