▼桜の季節がやってきた。県内では21日に前橋市で開花が観測され、桜前線はこれから徐々に北上していく

 ▼本県にとって東京の玄関口である上野でも、美しく色づいた。江戸時代から桜の名所として名高い上野恩賜公園では先日まで、急ピッチの準備が進んでいた。だが、残念ながら花見をさせない準備だ

 ▼コロナにより今年も「宴席禁止」の張り紙が並び、桜並木は一方通行となった。かつてのような花見はもちろん、しばし腰を落ち着かせて花を眺めるという環境や雰囲気はない

 ▼昨春、小池百合子都知事は「桜は来年もきっと咲きます」と花見の自粛を呼びかけた。どこか違和感があったのは、日本人は「来年も咲く」と思って桜と向き合ってはいないのではという思いがあったからだ

 ▼寒い冬を越えて鮮やかに花を満開にさせ、潔く散る桜のありように、古来日本人は思いを重ねてきた。〈花桜咲きかも散ると見るまでに誰かもここに見えて散りゆく〉。万葉集にある柿本人麻呂の歌は、桜をめでる日本人の一期一会の心を詠んだ。今、この一瞬を大切にせよという先人からの伝言に思える

 ▼花見が無理なら、ほんのひと時でいい。満開の桜を見上げて、コロナに奪われたいくつもの触れ合いや喜びを思いながら、日本人として前を向きたい。今年の桜は、今年しか見られないのだから。