▼嬬恋村出身の作家、南木佳士(なぎけいし)さんが昨年、40年務めた長野県佐久市の総合病院を定年退職したとエッセーで知り、次はどんな境地の作品が読めるのだろうと心待ちにしていた

 ▼今春に出た連作短編集『小屋をす』(文芸春秋社)の帯には「南木物語の終章」とあった。その意味を捉えきれぬまま読了したが、期待した以上の、成熟した物語の余韻を味わうことができた

 ▼定年で第一線を退いた男たち5人が、イワナ捕りを楽しみ、間伐材で畑の隅に小屋を建てていく「小屋を造る」。それから6年後、解体して燃やす一日を追うのが表題作の「小屋を燃す」だ

 ▼断片的に紹介されるエピソードで、登場人物たちの人生が少しずつ浮かび上がる。そのなかで、小屋の完成後に2人が他界していたことが明かされる

 ▼思わず息をのんだのは、夕暮れ、小屋の廃材を燃やして煮込みうどんをつくっていく場面。亡くなった料理上手とキノコ名人の2人を携帯電話で呼び出して料理に加わってもらい、全員で熱燗あつかんの酒を酌み交わすのだ

 ▼しかしここでは、死者の声を聞き、語り合うことが自然な出来事として描かれる。医師として人の生と死の現実を見つめ続けてきた南木さんの、命への穏やかなまなざしがそこにある。「終章」は、一区切りを経て、新しい領域に踏み出そうという姿勢を示す言葉と受け止めた。