▼明治維新の頃、欧米人にとって日本は地上の楽園のように映った。人間の社会に、上下の窮屈な圧迫感がない。美しい田園風景や、誠実に生きる庶民の笑顔に賛辞を惜しまなかった

 ▼ただ、性や裸に対する日本人の感覚は理解に苦しんだようだ。歴史家の渡辺京二さんの『きし世の面影』に詳しいが、伊香保温泉を訪れた英国の水道設計者は、外からよく見える混浴の公衆浴場に驚く

 ▼別の外国人は知り合いの日本人から、湯の中で妻子を一人一人紹介された。外国人が道を歩けば、物珍しさに裸のまま浴場を飛び出してきた見物人でごった返した

 ▼性のタブーや罪の意識が見えず、ある文面には〈日本人は肉体をいささかも恥じていない〉。それでいて、女性の体形をきれいに見せようとする欧米の衣装には羞恥心や嫌悪感を示したという

 ▼開国を迫る米大統領の国書が浦賀奉行に渡されたのは、1853年の今日のこと。当時の日本人なら、昨今相次ぐセクハラやパワハラの問題をどう考えるのだろう。世は移り変わり、問題の根にある圧迫感が増大した現代社会ではないか

 ▼初代駐日公使のハリスは〈新しい時代が始まる。あえて問う。日本に真の幸福となるだろうか〉と日記に書いた。開国の条約を結んだ当事者にして意外な言葉だ。この国の歩みを見つめ直す「明治維新150年」である。