▼春の訪れを告げるヨシ焼きが、板倉町と栃木、埼玉、茨城の各県にまたがる渡良瀬遊水地で行われた。炎は徐々に勢いを増し、写真愛好家が盛んにシャッターを切っていた

 ▼3300ヘクタールの遊水地は、野鳥のさえずりが響くなど貴重な動植物のすみかであり、自然豊かな場所として知られる。だが造成には足尾鉱毒事件が関わる

 ▼明治時代、足尾銅山(栃木県)の開発が進んで活況を呈した一方、流れ出た鉱毒の影響で渡良瀬川は汚染され、下流の耕地は荒廃した。深刻な洪水被害も起きた

 ▼流域に暮らす人々は地元出身の田中正造と共に、館林市の雲龍寺を拠点に銅山の鉱業停止などを求める運動を繰り広げた。数千人が東京まで歩いて被害を訴えたこともあった。正造が明治天皇に直訴を試みたことは有名だ

 ▼NPO法人足尾鉱毒事件田中正造記念館(同市)は一昨年、雲龍寺から直訴現場の東京・日比谷まで歩くウオーキングイベントを始めた。来月、最終行程を迎える。理事の鳥羽義昭さん(73)は「過酷な状況で行動せざるを得なかった当時の人々の思いが、同じ道のりを歩くことで感じられる」と語る

 ▼鉱毒に苦しんだ旧谷中村は遊水地計画により廃村となった。多くの悲しみと憤りの上に、自然に恵まれた今の遊水地がある。一歩一歩踏み締めることで、住民の思いや歴史は刻まれていく。