▼町から突然、人がいなくなった。昼食の片付けも、干した洗濯物もそのままに…。東京電力福島第1原発事故後の福島県浪江町の光景だ。一部を除いて避難指示が解除された今も復興にはほど遠い

 ▼「忘れないでほしい、あの事故を」。そんな思いを込めて、避難のため静岡県へ移り住んだ塾経営の堀川文夫さん(63)、貴子さん(64)夫妻が昨秋、絵本「手紙 お母さんへ」を自費出版した 
 
 ▼多くの人の共感が得られるように、絵本という手段を選んだ。愛犬「桃」を語り手に、避難を余儀なくされて心身ともに疲弊していく家族と桃の死を描く
 
 ▼物語には夫妻の悔しさと無念さがにじみ、胸が締め付けられる。28枚の絵は全国に散り散りになった塾の教え子たちも協力し、総勢19人で仕上げたという

 ▼太田市に避難しているシンガー・ソングライターの牛来美佳さん(32)も塾生の一人だった。帰れぬ故郷を歌で表現してきたが、昨秋からは恩師の絵本の普及活動に尽力。市内全小中学校に寄贈した。被災者の思いを伝え続ける

 ▼4月1日には堀川さんらを招いて市内で復興支援チャリティーライブを開く。事故後初めての対面で、これからの復興についても舞台で語り合うそうだ。牛来さんは歌にこうつづる。〈涙がいつか笑顔に変わる日が来る〉。願いが一日も早く実現することを祈っている。