▼高崎市の県立近代美術館に展示されている書家、井上有一の作品の前に立ち、激しい怒りと悲しみに圧倒された。代表作「ああ横川国民学校」と「東京大空襲」の作品群である

 ▼1916(大正5)年、東京生まれ。師範学校を卒業すると、東京市本所区横川尋常小(後の横川国民学校)の教師となった。戦時中、同校児童は千葉県に学童疎開していたが、井上は45年3月、卒業式に出席する6年生を連れ、疎開先から戻った

 ▼10日未明、約300機の米軍爆撃機B29が町工場や住宅がひしめく市街地に飛来し、無差別爆撃を行った。26万戸が焼かれ、死者は10万人を超すとも言われている

 ▼井上は宿直中、空襲に遭遇した。学校は地域の避難所になっておりたくさんの住民がいたが、猛火に包まれ、多くが焼け死んだ。井上は奇跡的に一命を取り留めたが、連れ戻った8人を失い、生涯にわたってそれを悔いた

 ▼〈一千難民逃げるに所なく 親は愛児をかばい 子ハ親にすがる 「お父ちゃーん」「お母ちゃーん」 子は親にすがって親をよべ共 親の応えハうめき声のみ。全員一千折り重なり 教室校庭に焼き殺さる(中略)聞きし親子断末魔の声 終生忘るなし〉

 ▼作品が書かれたのは33年後のこと。文字は東京を焼き尽くす劫火ごうかにも見え、人々の呻き声が聞こえてくるようだ。展示は来月8日まで。