▼「生」と「死」は意味が対をなすだけでなく読み方の上でも対照的である。生は150通り以上、一説には240通り以上とされるのに対し、死は「し」のみ。興味深いことだが、その由来は明らかになっていないようだ

 ▼生の読み方が多様なように、人の生き方もさまざまだ。多くの人は平穏な人生を望むのだろうが、中には危険を冒してまで自身の生を確かめながら生きていく人もいる

 ▼この人は後者だろう。冒険家の荻田泰永さん(40)は先月、物資補給を受けない「無補給単独徒歩」で1126キロを歩き、標高2800メートルの南極点到達に成功した

 ▼食料も燃料も補給しないのだから、時間との勝負でもある。はやる気持ちを抑えて重さ100キロのそりを引き、50日かけて遂げた日本人初の快挙だった

 ▼「諦めず、妥協せず、小さな目の前の一歩一歩の積み重ねだった」。到達後の感想を聞き、昨年に太田市で講演した海洋冒険家の白石康次郎さん(50)を思い出した。ヨットで単独無寄港世界一周を遂げた彼もまた、同様の言葉を自著に記している

 ▼よく耳にする文言だが、生死の境に立った経験が紡ぎ出す言葉は示唆に富む。白石さんは「精神筋力」の強靱きょうじんさが生と死を分けるとも説く。充実して生を全うするには、精神的なたくましさも育てなければならないことを、身をもって教えてくれている。