寄贈前の打ち合わせで、川島学長所有の「月に吠える」を手にする萩原館長(前橋文学館提供)

 群馬県前橋市出身の詩人、萩原朔太郎(1886~1942年)の第1詩集「月に吠(ほ)える」の初版無削除版が、市に寄贈されることになった。所有者は日本近代文学・書誌学者で、秀明大(千葉県)の川島幸希学長。同詩集は検閲で一部が削除された経緯がある。無削除版は希少価値が高く、市はこれまで入手できていなかったという。寄贈を受け、前橋文学館は年明けに一般公開する方針だ。

 1917年に刊行された「月に吠える」の初版は、内務省の検閲で性的表現に問題があるとして、収録されていた「愛憐」「恋を恋する人」の2編が削除された。同館によると、この2編は朔太郎が個人的に配った詩集にのみ収録されて無削除版と呼ばれ、10点ほどしか現存が確認されていない。流通自体が珍しく、市場に出ても非常に高価なため、収蔵できていなかったという。

 口語自由詩を確立した朔太郎の第一歩となるこの詩集は、日本の近代詩に大きな変革と、後年の詩人に多大な影響を与えた。検閲を受けた経緯から、政治的にも重要な意味を持つ資料となっている。

 川島学長は以前から市が入手に苦労していることを知っていたという。希少なため古書市場へ戻す考えもあったが、自身が複数所有していることや、「朔太郎の最初の詩集で前橋にとって必須なもの」との思いから寄贈を検討。昨年12月、前橋女子高出身で自身を文学の道へと導いてくれた母が亡くなったことと、来年が朔太郎の没後80年の節目でもあり、寄贈を決断したという。

 市は、21日の寄贈に合わせて川島学長に感謝状を贈る考え。上毛新聞の取材に山本龍市長は「貴重な資料を寄贈いただき大変ありがたい。素晴らしいご縁に感謝するとともに今後有効に活用していきたい」とコメント。同館の萩原朔美館長は「今回の無削除版の収蔵によって、前橋文学館が新しく完成されたような気持ちになった」と喜ぶ。

 お披露目の展示は来年1月下旬から、同館で1週間ほど行う予定だ。