▼新しい年は、沿道の歓声と共に幕を開ける。上州路100キロを走る全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)が年々盛り上がりをみせ、昨年は65万人が応援に駆け付けた

 ▼開催地が滋賀県から本県に移ったのは、ちょうど30年前の1988年だった。選手と併走するバスに乗り、からっ風にぶつかっていく走りに、ひたすら感心した記憶がある。実はあのころ、大会を“お荷物”のように言う声があった

 ▼「元日くらい、のんびり過ごしたいのに…」。沿道の整理に当たる知人がぼやいていた。だが、そうした愚痴めいた声は、ほどなく消える

 ▼「薫習(くんじゅう)」という仏教の言葉がある。たき込めた香が衣服に染み込んで香りが残るように、自らの経験が内面にしっとり浸透して心の習慣や人格がつくられるという意味だ

 ▼大会に携わった人はたとえ自発的な参加でなくても、現場で何かを感じ取ったのだろう。今年は関係自治体の職員、ボランティアら3600人が大会をサポートする。地方創生を先取りしたような慶春のにぎわいである

 ▼この1年は、どんなことが待ち受けているのだろう。不可解な偶然に翻弄(ほんろう)されて生きる非力な人間だが、前を向き自ら動くことで心が磨かれていく。薫習に、そんな意味も感じられる。「風に向かって走ろう」。慣れ親しんだ郷土のメッセージが力強く響いてくる。