▼報道の現場で、記者は悩み続けている。実名か匿名か。先月末、全国のメディア関係者が意見交換するマスコミ倫理懇談会での議論にあらためて考えさせられた

 ▼昨年7月、相模原市の障害者施設殺傷事件では、神奈川県警が「遺族の強い要望」もあるとして被害者を匿名発表。実名を大原則とする報道各社の要請にも対応は変わらなかった

 ▼その後、取材を進めていく中で、氏名は特定されていく。しかし遺族と向き合い、追い込まれた状態を前にして実名報道に切り替える判断ができないという率直な発言があった

 ▼一方で昨年8月、青森市の女子中学生が自殺したケースは、遺族側が「かわいそうなだけの子どもではない。いじめをなくしたいという訴えの力になると信じている」と当初の匿名希望から実名公表に踏み切った。取材を重ね、遺族と信頼関係を築いた中での変化だったという

 ▼各社の方針もあり、全ての場面で統一見解を出すのは現実的でない。ただ問題となったケースを語り合い、意見交換する場を持ち続けることが重要だとの認識は共有した

 ▼人権意識の高まりに伴う匿名化の流れの一方、インターネット上で個人名が特定、公開される動きは制御が困難との現実もある。日々変わりゆく環境の中で、事実を伝えるための重要な要素となる実名報道の意義を考え続けたい。