実家にあるオレンジ色の野球のグローブ。高校3年の時に使っていたものだ。金色の刺しゅうで「心のキャッチボール」、赤色の刺しゅうで「challenger spirit」の文字が入っている。大学の時のグローブには「常に全力疾走」「言い訳は進歩の敵」の刺しゅう。共通するのは部のスローガンと自分自身に言い聞かせたい言葉が入っていることだ。

 大学野球で忘れられない思い出がある。4年の最後の大会はベンチ入りメンバーに選ばれずサポートに徹した。全国大会出場が懸かった試合の前に、野球部寮の食堂で「最後のお願いがある」と応援歌の歌詞をコピーした紙をベンチ入り以外の全員に渡した。農大一高と三高出身の後輩と私が指導役で名物「大根踊り」を練習。明治神宮球場で肩を組んで歌って応援した。その後、部員が「青山ほとり」を歌うことが定着したと聞いた。

 大学を卒業し一般企業に就職した。大学野球で一区切りしたつもりでも頭の中には野球があった。1年もたたないうちに、会社の先輩が所属していた社会人硬式野球クラブチームのトライアウトを受けた。合格通知は来なかった。

 勤務先には軟式野球部があり、企業チームとして強豪だったのは昔の話。名前も変えて、クラブチームとして活動していた。いつの間にかユニホームを着てグラウンドに立っていた。

 ここ1年は、松井田高野球部の監督が同級生と知り、練習を手伝わせてもらうようになった。チームスローガンは「率先垂範」。人の先頭に立って物事を行い、模範を示すことだ。部員10名、マネジャー3名で活動している。早朝練習、放課後の練習と並行して、通学路の清掃活動も行っている。「地域に応援される野球部」になること、恵まれた環境で部活動に取り組めていることをPRしようと、部の公式アカウントを作り会員制交流サイト(SNS)で発信している。

 祖父は国鉄・横川機関区で働きながら松井田高定時制を卒業した。昼間、機関車の下に潜り、釜磨きをして油のにおいが付いたまま急ぎ足で学校に通ったと聞く。私も現在、安中市横川の観光案内所で業務を終えたら、松井田高のグラウンドに向かっている。

 野球に熱中できたのは、ベンチにいてもスタンドにいても、どんな形でもチームに貢献できることがたくさんあったからだと思う。感謝とリスペクト、悔しさと葛藤、それをはね返す孤独な闘いも全ての経験が財産になる。

 キャッチボールは1人ではできない。投げ方も相手に合わせて柔軟に。相手に勝つ前に自分に勝って、挑戦者としてグラウンドに立つ。二度と同じ一球はない今を、常に全力疾走で。言い訳は進歩の敵。自分にもう一度言い聞かせつつ、この夏、高校球児にはフルスイングをしてほしい。



安中市観光機構職員 上原将太 安中市松井田町横川

 【略歴】2018年から現職。「廃線ウオーク」ガイドなどを務め、地域の魅力を発信。都内の印刷会社を経て帰郷。安中市出身。東京農業大北海道オホーツク卒。

2021/06/13掲載