4月に開催された気候変動サミットで、日本政府は2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する目標を宣言しました。

 脱炭素社会への移行・転換の意義は、環境政策上の気候変動緩和のほかに、経済産業政策上の新たな投資や融資の機会、建設や製造分野の雇用機会の創出などが挙げられます。具体的には各種電源・熱源施設、系統および輸送・貯蔵インフラなどのほか、化石燃料の消費を前提としたプラント装置やモビリティーなどの設備更新の需要などが期待されています。

 他方で、これらの移行・転換には各部門からの追加コストやエネルギー供給システムの脆弱(ぜいじゃく)性リスクなどの追加負担が避けられません。化石燃料の生産や流通、消費を前提としたインフラやサービス、製品の改善や洗練化が積み重ねられた日本社会では、大規模な設備投資を伴う以上、投資家や事業者の利益や融資利息といった追加マージンも含め、誰かが数兆円単位での追加コストを負担する必要があります。

 全ての追加コストを相殺することは、年々の再エネ賦課金の増加を見るように、初期設備投資によるランニングコストの低減や回収(例えば白熱電球からLED電球への転換)、純粋な技術開発、効率改善などの努力だけでは難しいでしょう。また、裁定取引指向の新電力会社や不安定な再エネ事業者などの問題があらわになっているように、より性悪説にのっとった市場制度設計も同時に必要になると考えます。

 他にも、特に化学工業など、価格転嫁が難しい産業の国際競争性への影響や家計への逆進性といった点が指摘されています。また、数社を除き、国内の太陽光発電や風力タービンなどの主機産業はこの数年で実質的に撤退状況にあります。これらを再構築するには多額の設備投資費用を確実に回収できるかや、揺り戻しの可能性が低いことなどが不可欠になっています。これらは発電分野での海外事業投資で、アジアやアフリカ諸国の政府・公社に求めてきたものでもあります。

 従って、脱炭素社会への移行・転換の意義を国内でより確実に安心して享受するためにも、その追加コストの妥当性や許容程度、負担配分制度などについて、是々非々の議論を行った上で判断するという政治的なプロセスが必要だと考えます。

 日本が政策上のベンチマーク(指標)としているEUでも、フォンデアライエン政権による欧州グリーンディールの先進的な環境政策は、事前の有権者争点調査による環境問題への強い志向と多極化した議会での妥協の産物という、政治過程上の必然性があったものと認識しています。



投資・投資助言業役員 永井宏典 東京都港区

 【略歴】政府系金融機関、野村総合研究所を経て、2021年4月から現職。米国証券アナリスト、米国公認会計士。高崎市出身。高崎高―慶応大卒。

2021/06/06掲載