▼「曽遊そうゆうの地福島被曝海鳴りに」。俳人の金子兜太さんが1月に発表した句だ。曽遊は「以前に訪れたことがある」の意。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の発生からあすで6年となる

 ▼前橋文学館で21日まで開かれている企画展「震災と表現」は、金子さんが被災地に心を向けた句の一部を時系列に沿って紹介している。「津波のあとに老女生きてあり死なぬ」は震災直後の句。企画の趣旨に賛同し、同館に直筆の色紙を送った

 ▼担当する学芸員は「被災地はまだ復興とは程遠い。だが、私たちの記憶は少しずつ風化してしまう」。文学の力を借りて、犠牲者を悼み、被災の記憶をとどめるのは館の役割だとする

 ▼萩原朔太郎の随筆集『阿帯あたい』には関東大震災を振り返る作品がある。前橋にいて災禍は逃れたが、その後、都内の親戚を見舞うため、米と食料を背負って大宮から東京まで歩き、〈意気地もなくへたばつてしまつた〉

 ▼復興庁の調査によると、今春に一部の避難指示が解除される福島県浪江町、富岡町では5割以上の住民が「戻らないと決めている」と回答した。特に、若い世代は古里に戻ることを断念している傾向が強いという

 ▼大きな爪痕を残した震災。あの日、たまたまいた場所により運命が変わった。忙しい日々の中でせめて年に一度、被災地に思いを致す日にしたい。