人は自分が周りと同じであること、多数派であることで安心を得る生き物なのかもしれない。誰一人として同じ人はいないのに育つ環境や教育、文化に染まるわけである。いや、染まらなければならないと洗脳され、時には葛藤もするのだろう。私もどちらかというと多数派の中で安心や安定を求めていたいタイプだったように思う。

 しかし上京してから、少しずつ自分の人生なのだから自分らしく生きてみてもいいのかもと考えるようになった。その中で、高校生の時に「手話」という言語に少しだけ触れ、興味はあったものの、なかなか本格的に勉強しようと踏み出せずに十数年がたっていたことを思い出した。手話を学んでみようと地域の手話講習会に申し込んだ。同じ頃、本県のろう学校出身で映画監督として活躍されている今井ミカさんと、弟で映画監督、役者、男組の一員として活躍されている今井彰人さんの存在を知った。

 私は2人にお会いしたことはなかったが、彰人さんの作った映画の上映会に足を運んでみた。会場に集まっている中に顔見知りはいない。そして、ろう者が多い。聴者もいるが皆さん手話学習者という様子で、周りの人たちは手話でコミュニケーションをとっていた。

 手話が分からないに等しい私にとっては、まるで外国に来たような気分だった。英語の全く分からない日本人がアメリカに1人で旅行に来た感覚とでも言おうか。とても孤独でなんだか不安に感じたのも本音。みんなが手話で何を話し、盛り上がっているのかさっぱり分からない。席に座る際にたまたま手話で何か話し掛けられたが、よく分からなかった。しかし、分かったふりをして笑顔でうなずき、その場をしのいでしまった。もしかするとろう者は、聴者が多い社会で生活しているとこのような経験もたくさんされているのかもしれないとハッとしたことを鮮明に覚えている。

 自分だけ手話が分からないという世界を経験したことによって、初めて体感することや気付くこともあった。今まで触れる機会の少なかった手話をはじめとするさまざまなろう者の文化にも触れてみたい、知りたい。きっと聴者の文化にはない、特有のものもあるかもしれないとなんだかワクワクした。この経験を機に、本格的に手話を学ぼうと決意した。

 講習会に通うだけでなく、手話関連のイベントや講演会などにも参加しながら、ろう者と出会う機会も少しずつ増えた。そして今井ミカさん、彰人さんともお話しする機会があった。私の拙い手話に丁寧に対応してくださり、群馬の地元トークで盛り上がることもできてうれしかった。

 いつか彼らの作る映画に出演させていただくことが私の夢の一つになった。



俳優、金魚愛好家 中嶋秀人 東京都

 【略歴】ドラマ「ドクターX」やCM「エバラ黄金の味」に出演。手話を通じた俳優業にも取り組む。社会福祉士や保育士などの資格を持つ。前橋市出身。

2021/05/20掲載