▼幕末に活躍した旧利根村(現沼田市)出身の女性剣士、中沢琴を主人公にしたドラマが14日、NHK・BSプレミアムで放送された。琴を演じた黒木メイサさんの殺陣たては予想以上の迫力だった

 ▼琴は赤城山麓の農民を中心に盛んだった剣術「法神流」の達人とされる。剣術を現代に伝える「兵法法神流流儀伝承会」の事務局長、星野敬太郎さん(67)=渋川市=は「黒木さんが立ち回りで法神流の特徴をよく表現してくれた」と喜ぶ。「天狗てんぐ剣法」とも呼ばれた高く飛び跳ねる技や、片足立ちになる独特の形がそれだ

 ▼法神流は、1929年の天覧試合で優勝した持田盛二ら名剣士を輩出したが、戦後、衰退した。同伝承会は、赤城山麓の活性化につなげようと復興に取り組んでいる

 ▼武士より強い農民の剣は、作家の想像力を刺激するらしい。晩年を桐生市で過ごした坂口安吾や、歴史作家の津本陽さんが法神流を小説の題材にした

 ▼安吾は、上州生まれの剣術に興味を持ち、当時の入野村(現高崎市)で馬庭念流の鏡開きも見学した。「徹底的に実用一点ばりの剣法を農民が伝えてきたのだから痛快だ」と称賛し、「伝統の絶えざらんことを心から祈らずにいられない」と書いている

 ▼農民が剣術に励んだ歴史は、自立心に富んだ上州人気質を象徴するように思える。ドラマを契機に、この伝統を見直したい。