▼フィトンチッドといえば樹木が発散する芳香成分で、心身のリフレッシュ効果があることで知られる。語源をたどるとロシア語の「フィトン(植物)」と「チッド(殺す)」を組み合わせた造語だ

 ▼「殺す」はスギ、マツなどの精油成分が殺菌作用を持つことに由来する。ある種の小鳥は枯れ枝を集めて巣作りを終えると、産卵前にスギの青葉を敷くという。本能的にひなを雑菌から守っているのだろう

 ▼そんなフィトンチッドの薬理作用を実証したのが桐生市生まれの生気象学者、神山恵三さん(1917~88年)。気象庁気象研究所に長く勤務し、森林浴の効能を説いてブームの火付け役になった

 ▼〈森林に入ったら、馥郁ふくいくとした樹々の香を“聞く”ことである〉。〈リラックスした状態で、静かに、自然に息を吸い込んでいく〉。著書『森の不思議』(岩波新書)で、自然療法としての森林浴を推奨している

 ▼群馬県は県土の3分の2に当たる42万5000ヘクタールを森林が占めている。このうち46%がフィトンチッドをより多く発生させる針葉樹だ。木材の用途にとどまらず、健康にもたらす効果も忘れてはならない

 ▼今月、生誕100年となる神山さんは人の破壊活動により、森そのものの健康がむしばまれていく状況を強く危惧していた。改めて森の持つ多様な力に感謝し、共存する方法を探っていきたい。