▼初詣でにぎわう富岡市の貫前神社は平安時代の延喜式に記され、上野国一宮として知られる。養蚕機織りの守護神「姫大神ひめおおかみ」と武神「経津主神ふつぬしのかみ」を祭り、絹産業とも関連が深いことはご存じだろうか

 ▼本殿へ続く総門前に蚕糸業の繁栄を願って1866(慶応2)年に建てられた一対の青銅製灯籠(ぐんま絹遺産)がある。下部に献金した富岡、前橋、藤岡など各地の農家や生糸商人、東京、横浜の絹商人1500人余りの名前を刻んでいる

 ▼横浜発起人には高崎出身の生糸商、茂木惣兵衛や後に富岡製糸場を経営した原合名会社の前身、亀屋の原善三郎も名を連ねる。絹産業に汗し、生糸輸出の増大を願った先人の思いに触れた気がした

 ▼貫前神社は先月から12年に1度の式年遷宮が始まり、神霊を本殿から仮殿に3月まで移している。昔の養蚕農家は神事で神が通過した後の敷きわらを持ち帰り、繭の豊作を祈ったという

 ▼かやぶきの仮殿に建てた神が宿る柱は、下仁田の山林から切り出した大杉をちょうなで削っている。遷宮中に本殿の畳を替え、富岡産の春繭で2神の衣を新調する。小林冨士夫宮司は「式年遷宮を通じた伝統技術の継承も大事」と話す

 ▼灯籠建立の6年後に創業した富岡製糸場は2014年、世界文化遺産に登録された。連綿と続く本県の絹文化を、われわれも引き継いでいきたい。