▼新春を迎えたというのに、以前ほど正月らしさを感じなくなった。季節の風物詩が失われ、たこ揚げや羽根つきといった昔ながらの遊びをする子どもが見られなくなったことも一因かもしれない

 ▼正月遊びの一つにすごろくがある。さいころの出た目に従ってこまを進め、上がり順位を競う絵すごろくは江戸時代に道中ものや名所を巡るものが流行し、さまざまな形が生まれたとされる

 ▼北国街道の宿場で明治以降は養蚕で栄えた長野県東御市の重要伝統的建造物群保存地区、海野うんの宿の資料館で「養蚕すごろく」を見たことがある。新年の養蚕成功を祈って一家で楽しんだものだろう

 ▼民俗研究者の飯田孝さんによると、養蚕すごろくは幕末にお年玉として農家に配られた「新版奥州流養蚕早見雙六すごろく」が起源だという。明治初めには「新版上州本場養蚕手引寿語禄すごろく」も発行された

 ▼「上州-」には桑摘み、繭かき、絹糸取りといった作業の錦絵とさいころの数による進み先が書かれている。「上がり」の隣には繭や生糸が高く売れたのか「長者」のますがあり、ここで1を出せばゴールになる

 ▼〈双六すごろく(すごろく)のさいの禍福のまろぶかな〉(久保田万太郎)。世代を超えて手軽に楽しめるのがすごろくの魅力だろう。養蚕すごろくは入手が難しいとしても、手元にあるもので子どもと遊んで正月気分に浸るのもいい。