見知らぬ町・東京を歩き回り、謎めいたくぼ地(スリバチ)の存在に気付き、それこそが東京の個性であり魅力の源泉だと思っています。それらは地域資源に違いないと、東京スリバチ学会会長として情報発信を続けています。

 人の歩くスピードだからこそ、発見できるものがあるように思います。例えば地域で大切にされている神社仏閣、あるいは古くから存在する道や傍らに置かれた地蔵や庚申塔、祠(ほこら)など。それらは自分たちが悠久の歴史の中で暮らしていることを教えてくれる町の宝物です。

 歴史的に価値あるものに限らず、ご当地マンホールや街灯、手入れの行き届いた軒先の鉢植えや手作りの看板など、人の営みが伝わってくると優しさを分けてもらった気分になり、町歩きの楽しさを実感します。

 20世紀のまちづくりは、車の利用を前提とした効率性に主眼を置いて計画されました。真っすぐで幅の広い道路の整備や郊外型大型店の充実など、それらは便利で快適な暮らしをもたらしました。けれどもモータリゼーション浸透の影で、自分たちの歩く機会は失われていきました。

 私の場合、上京した際、経済的に車を持つ選択肢がなく「歩かざるを得ない」状況が、東京の魅力発掘につながったとも思います。ですから今は身近な町から歩いてみることを勧めています。車のスピードでは気付かない宝物が町にはあります。歩かないのは「もったいない」のです。

 昨年ある夢がかないました。それは「町歩きのための地図帖」の実現です。幸いなことに町歩きのスペシャリストと認知され、多くの地図を出版している昭文社からのオファーが『東京23区凸凹地図』の刊行につながりました。立体的な地形表現に加え、町歩きで立ち寄りたい社寺や歴史的建造物、階段、古道、暗渠(あんきょ)(ふたをした川や水路)などを地図上に表しました。町の魅力発見の手掛かりになる一冊だと自負しています。

 東京には「歩いて暮らせる町の寄せ集め」のような一面があります。歩いて暮らせる町は中心市街地や地元商店街などを例に、どこにでもありましたが、現在は存在と価値が忘れられているように思います。コンパクトな既存市街地では、車に頼る郊外型の暮らしとは異なるライフスタイルがかないます。いにしえの記憶や街角に潜むお宝を歩くことで発見し、共に歴史を重ねていく、豊かで健康的な暮らしです。

 そんなライフスタイルを望む人たちの「選択肢」として、既存市街地やローカル商店街の存在を意味づけることができると思います。脱炭素化に向けた社会的取り組みにおいても効果的ですから、今あるモノの価値を再評価し、高めていく町おこし・地域づくりの取り組みは意義あることだと考えています。



東京スリバチ学会会長 皆川典久 東京都江東区

 【略歴】スリバチ状のくぼ地を観察・記録する東京スリバチ学会を2003年に設立。地形マニアとしてNHK「ブラタモリ」に出演。前橋市出身。前橋高―東北大卒。

2021/04/29掲載