考古学には型式学的な研究法がある。モノをグループ分けし、時間と広がりの中で分類、相違する点を足がかりに整理して謎解きを進める、という説明になるだろうか。1783(天明3)年の浅間山噴火の研究を通し、「学際」という言葉とともに発掘調査の現場で学んだ。これが今回の企画展示で生かされた。

 村内の農産物直売所「あさまのいぶき」に、だいだい色の大型トラクターが置かれていたのを目にされた方も多いのではないだろうか(私はひそかに「看板息子」と呼んでいる)。昨年8月の直売所オープンに絡め、当館では11月から、高原野菜の産地発展を支えたトラクターをテーマにした企画展示を行っている。「天明3年浅間山噴火」と並び、郷土の歴史や文化財を取り上げることは博物館の任務であり、地域の課題解決への役割でもあるからだ。そしてこの展示を機に、貴重な情報が寄せられた。

 村内で古い時期の鉄車輪トラクターが所蔵されているというのだ。自動車社会をつくり出したとして米国の「T型フォード」が有名だが、その兄弟会社フォードソン社の「F型」トラクターである。伝わる来歴を頼りに、いくつかの文献をひもといた。

 内燃機関を搭載したトラクターの国内導入第1号であり、現代乗用トラクターの原型となる構造や、始動時にガソリンを使って灯油で動くエンジン、土ぼこりを吸入しないよう水のタンクを通す吸気方法など、さまざまな特徴がある。門外漢の自分には新鮮な発見ばかりだった。

 F型は国内で3台が展示されており、関係機関から情報をいただいた。部品番号などを手掛かりに製造年を明かそうと試みた。その結果、もう1台を加え、国内に現存する5台のうち、嬬恋にあるものが最も古いことが判明した。

 さらにその背景に、わが国の人口急増問題に対応するため、当初、国策で導入した農業機械だった、という価値付けができることが分かってきた。「100年前」という価値だけでなく、機械の背景に歴史の流れが見えてきたことが今回の調査の成果だったと考えている。「トラクターの奥に人が見える」と言葉を掛けてくださった方がいる。

 埋もれつつあるモノとコトの「発掘」に、研究領域を超えた「学際」という言葉を通した発見があった。天明3年の発掘調査の経験を生かすことができた貴重な時間だったことにも気付いた。

 資料館では29日から5月5日まで、関係者の協力を得て、F型と県内で最初に導入されたトラクターに、応援協力の新旧大型トラクターを加えた計10台を展示する。新緑の嬬恋に多くの方に足を運んでいただけるとうれしい。

 次回からは本業の「天明3年」の発掘を振り返らせてもらう。



嬬恋郷土資料館館長 関俊明 東吾妻町箱島

 【略歴】県内小中学校、県埋蔵文化財調査事業団勤務を経て、2020年4月から現職。東京農業大非常勤講師。国学院大大学院博士課程後期修了。博士(歴史学)。

2021/04/24掲載