「情けは人の為ならず」という言葉は、人に情けをかけると結局はその人のためにならないと誤解する者も多いが、本来の意味は人に情をかけることで、それが巡り巡って自分にも良い報いが来ることを意味している。

 自分一人だけの力では幸せを実現できないことが多く、例えば結婚の場合は、相手の同意がなければ成立しないし、仕事で成功するためには、人々の協力や承認が必要になる。利己的行動だけでは、短期的には得をすることがあるかもしれないが、それで得られる幸せには限界があるのではないか。人との信頼関係を失い、悪循環となってしまう。より大きな幸せを実現するためには、利己的行動と利他的行動のバランスを取ることが重要だと考える。

 2000年代のアメリカで行われた、大学生にお金を渡して実際に使ってもらう実験の結果では、人のためにお金を使った方が幸せになれるようである。しかし多くの人は、人のためにお金を使うよりも自分のために使った方が幸せになれると考えている傾向があるようだ。日本とアメリカでは国民性や生活習慣が違うため単純に比較できないが、お金や時間の使い道は個人的な目的が過大になっている現実がうかがわれる。

 コロナ禍で、ⅠTを使って遠隔で仕事や授業をする機会が増えている。ⅠT化が急速に進んでいる半面、対面での交流が減少し、人と人とのつながりが欠如してしまうと、利他的意識を持ちにくくなると思われる。

 改善策の一例ではあるが、サービス・ラーニングを重視した教育を実践している教育機関が増え、注目されるようになっている。サービス・ラーニングとは、アメリカで発祥した教育プログラムである。学生が学んだことを生かし、地域社会での課題に対して主体的に社会貢献活動を体験することで、学習の動機付けや深い理解、職業観の形成、自制心ややり抜く力など、学力以外の能力を総称した非認知能力の向上につながることが期待されている。

 教育活動の一環として、事前学習、実践、振り返りという段階を踏んで学んでいく体験を通じ、社会的な役割や責任を自覚し、利他的意識を育み、市民性を養う効果を持つことが指摘されている。こうした体験が、ボランティア活動にも一層生かされることが期待される。

 現代社会は過疎化や高齢化の進展、単身世帯の増加、共同意識の喪失など、地域が抱える課題が山積みだ。人々が支え合い、共生を実感できるコミュニティーづくりがますます重要になってくる。今後、サービス・ラーニングを教育の中に効果的に組み込むことを、より真剣に検討していくことが求められている。



群馬医療福祉大大学院社会福祉学研究科教授 白石憲一(高崎市江木町)

 【略歴】2017年から現職。専門は計量経済学。県の地域大学連携モデル事業で桐生市などと共同研究を行う。川崎市出身。慶応大大学院商学研究科単位取得退学。

 2021/4/9掲載