▼昨年6月から7月にかけて“初来日”を果たしたので、ご覧になった方もいるだろう。中国料理の東坡肉(トンポーロウ)にそっくりな「肉形石(にくがたいし)」と並び、台湾・台北市の故宮博物院が世界に誇る文物「翠玉(すいぎょく)白菜」だ

 ▼昨年、東京国立博物館で開催された故宮博物院収蔵品の特別展。えりすぐりの文物がずらりと並んだ展覧会でも「白菜」は期間限定公開の別格扱いだった。その特別展で見る機会を逸した名品を先日、台北故宮で見ることができた

 ▼幅9.1センチ、奥行き5.1センチ、高さ18.7センチ。翡翠(ひすい)(硬玉)を磨き、彫り上げた作品はしなやかな葉に包まれた白菜と葉の上にとまるキリギリスとイナゴを表現していて、見事というほかない

 ▼中国では玉と呼ばれる美しい石を用いてさまざまな器物を作る伝統がある。18世紀から19世紀の清の時代に制作された「白菜」は白菜が純潔を、キリギリスとイナゴは多産を象徴しているという

 ▼この文物の素材となった野菜が日本に本格的に導入されたのは明治初期。全国に普及する上で、日清、日露戦争で大陸に渡り、その味に親しんだ兵士たちの力が大きかったという

 ▼それがいまや、冬の代表的な野菜として、本県も全国有数の生産量を誇る。これからの時季、鍋物を囲んだり、漬物を口にするたびに「翠玉白菜」に込めた名もなき制作者の願いを思い起こしそうだ。