上毛新聞社の内山社長・主筆(左)と対談し、「未来への投資や新しい富の創出につながる取り組みは欠かせない」と語る山本知事
「総合計画に掲げたビジョンの方向へ県政を進める」と抱負を語る山本知事
「社会的課題の解決に貢献することは新聞の在るべき姿の一つ」と力を込める内山社長・主筆

 2022年の幕開けに当たり、山本一太知事と上毛新聞社の内山充社長・主筆が対談し、新型コロナウイルス感染症やCSF(豚熱)への対応をはじめ、本年度スタートの県総合計画に掲げられた施策、新聞の在り方などを巡って意見を交わした。

 山本知事は「新型コロナから県民を守ることに全力を尽くしつつ、未来への投資や新しい富の創出につながる取り組みは欠かせない」と指摘。群馬県が誇る温泉や農畜産物を使い、人々が癒やしを求めて来県するような「リトリートの聖地」を目指す構想も説明した。

 一方、内山社長は「新聞社は単純に起きた事象を追うだけではなく、課題解決を目指して読者と一緒に知恵を出す姿勢が大切」と強調し、報道の立場から社会的課題の解決に貢献していく考えを示した。

 このほか行政や教育のデジタル化、プロスポーツを活用した地域振興、自ら考えて動く人材「始動人」の育成など、さまざまなテーマについて議論した。

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 新型コロナウイルス感染症やCSF(豚熱)などに対応しつつ、いかに県政を前に進めるか-。2022年の幕開けに当たり対談した山本一太知事と上毛新聞社の内山充社長・主筆。2年半の山本県政を振り返りつつ、今後のデジタル化や地域振興などを巡り意見を交わした。

防止策と経済を両立 コロナ・家畜伝染病 

 内山 知事就任後の2年半は危機管理が問われる課題が次々に浮き彫りになった。特に新型コロナウイルス感染症は2019年の12月に中国で初の患者が見つかった後、瞬く間に世界中に広がり、われわれの生活を一変させ、現在も本県を含む世界経済に大きなダメージを与えている。まず今後のコロナ対策を聞かせてほしい。

 山本 20年3月に本県初の患者が確認されて以来、最優先事項は新型コロナの脅威から県民の健康と命を守ることだった。今は落ち着いているがウイルスとの闘いは長期戦。オミクロン株という新たな要素もある。依然として最重要課題の一つだ。

 とにかく第5波の経験を踏まえ、感染状況が落ち着いている間に専用病床や療養施設の増強、抗体療法の態勢強化など第6波への備えを構築し、感染対策と経済を両立させることが大切。県民にもマスク着用や換気、手指消毒といった基本的な感染防止対策の継続を呼び掛けたい。

 内山 スペイン風邪が流行した100年前の上毛新聞を調べてみた。まだ「スペイン風邪」という表現はなく「悪性流行感冒」や「世界風邪」と記されていたが、手洗い、マスク着用を呼び掛け、ワクチン注射を奨励していた。貧困層への手厚い配慮や、医療提供体制の脆弱(ぜいじゃく)な町村への医師派遣など、当時とすれば最善の対策を講じていたのだと思う。

 今日の医療体制、ウイルス研究は当時と比べものにならないほど、進化、強化されている。ワクチン接種を含め、ここが現代の強みだ。1、2回目のワクチン接種は県営の大規模接種センターが奏功し、全国的にも早いペースで進んだ。今年本格化する3回目接種への県民の期待は大きい。

 山本 1回目、2回目の接種は医療関係者をはじめ多くの方々の尽力により、全国最速で接種率8割を目指すという県民との約束を達成できた。県民の協力のおかげであり、知事として誇りに思う。

 今後も新たな変異株が出てくる可能性を考えれば、感染や重症化の抑止効果が大きいワクチン接種は欠かせない。国と連携して3回目接種の必要性や効果、副反応に関する正確な情報を県民に提供し、接種時期を少しでも前倒ししたい。

 内山 最近はほかにもCSF(豚熱)、鳥インフルエンザなど、ウイルスの脅威が目立つ。特に全国有数の養豚王国である本県にとってCSFは深刻だ。広大な土地で飼養豚を管理できる海外と違い、本県は養豚場が多い赤城山南面など、野生動物が侵入しやすい環境にある。私自身は昨年9月から主筆という編集局の責任者も兼任する立場になった。農家が安心して豚を育て、出荷できる環境を実現するため、報道機関として何ができるか考えていく。

 山本 CSF対策も知事に就任以来、一貫して最重要課題の一つだ。それだけに県内で5例発生したことは痛恨の極み。農家の皆さん、県民の方々に申し訳ないと思う。

 対策は子豚へのワクチン接種、野生イノシシ対策、飼養衛生管理基準の順守が3本柱だ。このうち子豚へのワクチン接種は、民間獣医師の活用で打ち手を増やす「知事認定獣医師」制度を農相に直接働き掛けるなど、全力を挙げてきた。野生イノシシ対策として養豚農家が多い赤城山南面を中心とする経口ワクチンの集中散布、捕獲強化に取り組んでいる。衛生管理についても農家がスマートフォンで管理状況を自主的にチェックできるアプリを開発し、順守レベルの向上を図っているところだ。

 確かに内山社長が指摘した通り本県は飼養数が多く対策が難しい点はあるが、これだけ短期間に連続して発生するからには原因がある。既存の3本柱の強化を軸としつつ、抜本的な対策の見直しを検討している。養豚農家の方々と連携、協力し、この危機を乗り切っていきたい。

人気生かし地域に力 ぐんまちゃん・プロスポーツ 

 内山 本年度から新しい県の総合計画が始まった。20年後、2040年の県の将来像を描き、実現に向けた施策をまとめている。昨年は県庁32階の官民共創スペース「ネツゲン」、児童生徒が授業などで1人1台のパソコンを使う取り組み、アニメ「ぐんまちゃん」がスタートするなど、計画の実現に向けた関連施策が早速動きだしている。

 山本 新型コロナから県民を守ることに全力を尽くしつつ、未来への投資、新しい富の創出につながる取り組みは欠かせない。県庁32階に整備した動画放送スタジオ「ツルノス」や、多分野の人が交流を通じて課題解決や新ビジネス創出を目指す「ネツゲン」は、コロナ下でも前に進めることができた施策だ。

 ツルノスは県職員が作った動画を年約1500本のペースで発信しているが、強調したいのは大半の動画が外部委託ではなく職員が作り、年間700万~800万円程度で済む点だ。同様のインターネットテレビに年間2億~3億円使っている自治体もあり、ワイズスペンディング(賢い支出)の象徴的な例と思っている。今後はさらに多くの人に動画を見てもらう取り組みに力を入れたい。

 ネツゲンは開設当初こそ営業時間短縮やイベント中止などコロナの影響で苦戦したものの、最近は会員が増えて起業家らの連携も生まれている。会員企業がネツゲンを利用し、ビジネスの成果や可能性を発信する例も増えてきた。感染状況次第だが、県内プロスポーツのパブリックビューイングなども考えており、さらに盛り上げたい。

 内山 ぐんまちゃんのアニメ化を話題にしたい。ぐんまちゃんは県民になじみ深いキャラクターで県外での認知度も高い。アニメはインターネットを介して世界に発信できる可能性を秘めている。面白い試みだと思う。

 山本 かなり手応えを感じた。「クレヨンしんちゃん」を手掛けた監督の本郷みつるさんら一流のスタッフに加え、内田彩さん、小倉唯さんら本県出身のトップクラスの声優が参加してくれたことが大きい。

 実際、地上波では国内全世帯の48%に当たる2667万世帯をカバーする関東圏6局、関西圏2局で放送され、インターネット動画配信サービスでも22社が扱い、ネット上でも「ぐんまパワー」などアニメのせりふが話題を集めた。

 ぐんまちゃんのブランド力を県の認知度アップや観光誘客、農畜産物の販路拡大などにつなげていきたい。県民が誇りを持てるようになればと思っている。

 内山 プロスポーツにも同じ役割が期待できる。本県にはバスケット、サッカー、野球という人気スポーツにそれぞれ「群馬クレインサンダーズ」「ザスパクサツ群馬」「群馬ダイヤモンドペガサス」というプロチームがあり、地域振興の効果は大きい。上毛新聞としてもスポーツ面が独立している「ツイン方式」の特徴を生かし、熱戦を大きく伝えて盛り上げていく。

 山本 山本県政は今までと違う新しいベクトルを幾つか打ち出しているが、その一つは「プロスポーツによる地域振興」だ。スポーツは人を元気にし、地域経済にも貢献する。個人的にも親しい楽天の三木谷浩史会長兼社長が手掛ける楽天イーグルスは最高の成功例だろう。県もしっかり後押ししていきたい。

 もう一つ言うと、新しいスポーツとしてeスポーツにも力を入れている。昨年は全国初となる「全日本eスポーツ実況王決定戦」を開催した。また、世界的なブランド力がある「レッドブル5G ファイナルズ」も本県で開かれ、主催者と連携し、クリエイティブ人材育成を目的とする社会人・学生向けワークショップも実施した。先端的な取り組みとしてメディアにも取り上げられた。


 内山 eスポーツは市場性に加え、新たなライフスタイルの一つとしても注目される。上毛新聞では、関連会社の上毛新聞TRが旗振り役となって一般社団法人群馬県eスポーツ連合を立ち上げ、事務局としてeスポーツの普及に向けたイベント運営などに取り組んでいる。未知数だが大きな可能性を感じる。同時に報道機関としてゲーム依存といったマイナス面への対応も重要と考える。健全な形で盛り上げていきたい。


 山本 とても共感できる。eスポーツを進めていくことと依存症対策は両輪でなければならない。この姿勢で良い面を引き出すようにやっていきたい。

自ら考え動く人材を デジタル変革・「始動人」育成 

 内山 総合計画は、2023年度末に国内最先端のデジタル県を目指している。新聞業界も若い人の活字離れ、少子高齢化などで、紙だけのビジネスモデルが成り立たなくなりつつあり、DX(デジタル技術を活用した変革)が求められている。

 その一環として上毛新聞は昨年12月、ニュースサイトを見やすくリニューアルし、「#gunma 上毛新聞」と名付け、速報態勢を整えた。県内外の情報をさらに吸い上げ、全国に発信したい。ただ、23年度末とは、かなり近い将来の目標設定だ。具体的にどう進めていくのか。

 山本 昨年、「153」をキーワードに県庁内のDX推進の工程を定めた「DXアクションプラン」をつくった。県庁舎の高さである153メートルにちなみ、職員が「一」丸となって、マイナンバーカード交付率など13項目で全国トップ「5」を「3」年以内に目指すという意味を込めた。

 また、民間を含めて県全体に自立的なDX推進の流れをつくるための101事業をまとめた「DX加速化プログラム」も策定した。かなり高い目標ではあるが、DX化の効果は社会全体に及ぶ。二つの計画を軸に実現を目指したい。

 既に本県のDX化を象徴する成果もある。スマートフォンに新型コロナのウイルスワクチンの接種情報を表示する「ぐんまワクチン手帳」を全国で初めて導入し、約30万人の県民が登録している。県職員の創意工夫で作ったので開発費は700万円。東京都の同様のシステム開発費が10億円と聞くので、これも賢い支出と言える。とはいえ、まだまだ通過点であり、マイナンバーカード交付率など課題は多いので全力で取り組む。

 内山 DX関連では、本年度から学校で1人1台のパソコンを活用した授業も始まった。初年度をどう評価し、今後の活用を進めるのか教えてほしい。

 山本 昨年の新春に内山社長と対談した際、コロナを踏まえた今後のキーワードを「ハイブリッド」とした。今後はさまざまな状況に柔軟に対応できるハイブリッドの資質が必要という意味を込めたが、これは教育にも言える。

 昨年夏、緊急事態宣言が出て県立高校の分散登校を余儀なくされた際、半分は教室、残りは在宅オンライン授業というハイブリッド型で進めた。教員や生徒の皆さんが授業や行事に工夫を凝らし、学びを止めない態勢を構築できた。本年度の実績を踏まえて教育データの利活用、あるいは小中高とデータを引き継げる共通プラットホームの構築、ICTによる教員の業務改善などを進めたい。

 内山 人材育成では総合計画に掲げた「始動人」育成に注目している。課題の解決方法を自分の頭で考え、動きだせる人材を育てる。たとえ答えが出ないとしても、まず自分で考えてみる姿勢は大切であり、とても共感できる。

 社会的課題の解決に貢献することは新聞の在るべき姿の一つでもある。単純に起きた事象を追うだけではなく、課題解決を目指して苦しみながらも読者と一緒に知恵を出す姿勢が大切だと思っている。その一環で上毛新聞も県内の中高生を対象とする県の「始動人ジュニアキャンプ」をお手伝いした。知事が考える始動人の姿を聞いてみたい。

 山本 内山社長は以前から今後のメディアの役割は報道するだけでなく、課題解決の流れをつくることだと言っているが、大胆な挑戦だ。始動人とは自分の頭で未来を考え、他人が目指さない領域に動きだす力、生き抜く力を持った人のことだと思っている。

 強調したいのは始動人とは決して特異な才能を持つ人ではなく、県民の誰もがそのかけらを持ち、始動人になり得るということ。自分の意志で一歩踏み出し、勇気を持って新しいことに挑戦できる人は始動人だ。こういう人がどんどん増えてほしい。ジュニアキャンプに加え、課題解決に重きを置いた「STEAM教育」なども始めている。この2年半、どんな時代でも一番大切なことは人材育成、そして教育と痛感した。こうした流れをさらに進めていきたい。

 内山 上毛新聞も起業家育成の「群馬イノベーションアワード」や、プログラミング人材を育てる「ぐんまプログラミングアワード」を通じ、今後の群馬県を担う人材の養成に取り組んでいる。知事が言う始動人の育成にも通じると思う。

全国先駆け施策推進 癒やしの聖地・災害対応拠点 

 内山 個人的に今年は節目の年だと考えている。日本のターニングポイントとなった明治維新から77年後の1945年、日本は敗戦で大きく変わった。そこからちょうど77年後が今年に当たるからだ。

 明治維新後、日本は富国強兵を掲げ、日清、日露戦争、第1次、第2次世界大戦を戦った。そして敗戦を機に国家を大きく変え、平和憲法を制定して戦争をしない国家をつくった。作家の故・半藤一利さんは、国家は40年をピークに発展し、その後の40年で衰退する説を唱えたが、そうすると耐用年数が近づいていることになる。

 東日本大震災や東京電力福島第1原子力発電所の事故をはじめ最近相次ぐ大規模災害、そして新型コロナなどウイルスの脅威を考えると、思わずうなずいてしまう面がある。今後を占う上でも重要なこの一年、いかに県政を進めるか。最後に抱負を聞かせてほしい。

 山本 とても興味深い話だ。確かに昨年は新型コロナを中心に、動きの大きい一年だった。だが、知事就任後、県政は大きく変わってきたと思っている。

 以前の群馬県は全国に先駆けた施策が少なかった。だが、コロナ対策だけを見ても県営ワクチン接種センターや中小企業への7年間の無利子融資、観光支援事業「愛郷ぐんまプロジェクト」、ぐんまワクチン手帳などは全国初、あるいは全国で最も手厚い取り組みと言える。

 コロナ以外でも部長職以上に占める女性比率は全国で最も高い。また、本県に住む多くの外国人県民は地域発展に欠かせない「仲間」である。手を携えて地域に活力をもたらそうと、自治体として全国で初めて「多文化共創」という概念を明文化した条例も本年度施行した。困難な中でも県政を前に進めているということだ。

 今年も「県民の幸福度向上」という基本哲学に基づき、総合計画に掲げた方向に進める。その上で新たに見えてきた未来ビジョンが二つある。一つは「リトリートの聖地」だ。住み慣れた土地を一時離れ、心や身体を癒やす過ごし方のことだが、ウイルスとの闘いを背景に現代は自然治癒力や免疫力のアップが求められている。本県が誇る温泉や農畜産物とヨガなどを結び付け、首都圏で疲れた人が免疫力をアップして帰る場所として売り出したい。

 二つ目は本県を「レジリエンスの拠点」とすることだ。レジリエンスは災害などの困難にしなやかに適応し、乗り越える力を言うが、例えば今回、Gメッセ群馬が全国で最も成功した接種センターとなったように、場合によってはGメッセの使い方を大胆に見直してコロナとの闘いの最前線拠点としたり、首都直下型地震が起きた際の首都機能のバックアップ機能拠点とすることなどが考えられる。この二つのビジョンを具体化していきたい。