「Good Rain!」。ある町の朝刊1面トップにこんな見出しが出ました。そこはオーストラリア・クイーンズランド州の農業の町、トゥウンバです。牛肉輸入自由化の翌年(1992年)、私はこの町の郊外にある牛肉工場に赴任しました。毎日雲一つない快晴で、雨は全く降りません。穀物はおろか、草も生えないので牛は食べるものがなくやせ細っていました。そんな中でのまとまった降雨は、まさにグッドレイン以外の何物でもありませんでした。

 オーストラリアは誰もが知る農業大国で、私たちの食卓に欠かせない小麦の約15%、牛肉の3分の1がこの国から輸入されています。さぞかし豊かな農業国かというと、実はそうでもないのです。穀物を栽培できる農地は限られています。日本並みに雨が降るのは海岸線の一部で、国土の半分以上が砂漠または雨の少ないステップ気候です。

 少しの草しか生えない土地では、牛を育てることしかできません。国土が日本の約20倍と広く、日本の6倍以上の牛(乳牛を含む)が飼育されています。人口は約2560万人と日本の約5分の1で、生産される牛肉の約75%は世界中に輸出されています。

 赴任する前の私は、オージービーフは「安かろう悪かろう」と思っていました。しかし、その工場で目の当たりにしたのは、HACCPに基づく世界最高水準の衛生管理でした。目からうろこが何枚も落ちて、自分の無知を恥じました。オーストラリア人はなぜここまで衛生管理を徹底できるのか。考えた末の私なりの結論は「そうしないと食っていけないから」でした。

 自分たちが作った牛肉を世界の人が買ってくれないと、彼ら彼女らは暮らしていけないのです。イスラム教の国に輸出するためにはハラル処理をし、アメリカの衛生要求事項、EUのアニマルウェルフェアを徹底する。そもそも冷蔵牛肉は賞味期限が長くなければ世界中に船舶で運べません。口蹄疫(こうていえき)、牛海綿状脳症(BSE)などの病疫対策はもとより、牛のトレーサビリティー、農薬・動物医薬品の残留対策など、あらゆることで世界をリードしてきたのです。

 そして今、オーストラリアが取り組んでいるのは、2030年までに畜産・食肉産業でカーボンニュートラル(二酸化炭素など温室効果ガスの排出と吸収を同じ量にすること)の達成です。牛のげっぷに含まれるメタンが温室効果ガスの一つであると言われていますが、マメ科植物、海藻、サプリメントなどによるげっぷの削減、昆虫のフンコロガシによる栄養分と二酸化炭素の地中への保持など、地球温暖化対策を積極的に推進しています。

 私たちが他の国から学ぶことは、まだまだたくさんありそうです。



全国食肉学校常務理事 小原和仁 玉村町福島

 【略歴】全国食肉学校教務部長を経て2018年から現職。1級ハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士。ものづくりマイスター。岩手県釜石市出身。東北大卒。

2021/04/04掲載