▼繭でこのような表現ができるとは-。名古屋市の花工芸家、酒井登巳子さんによる「花まゆ」の作品を5年前、前橋であったイベントで初めて見た時の驚きは忘れられない

 ▼繭にハサミを入れ、内側の層を 丁寧にはぐと、小さな花びらの形になる。これを何枚も何枚も重ねていく。そうやってすべて手作業で仕上げられた大輪の花が、落ち着いた色の器にいけられていた

 ▼近くで見ると、繭の曲線や色合い、質感をそのまま残し大切にしていることがわかる。着物になる前の素材にも、これほど引き付ける力があるのだということを初めて教えられた

 ▼紙や布などで花作りをしてきた酒井さんが繭と出合ったのは30年ほど前。生徒から、繭を使った花ができないかと相談されたのがきっかけで「花まゆ」の技術を考案し、全国各地の教室で広めてきた

 ▼使うのはすべて国産繭。日本の絹文化を大切にしたい思いからだという。高崎市の県立日本絹の里で開かれている酒井さんの作品展「花まゆ展 繭から生まれた花」を見ると、繭生産への深い理解と愛着が伝わってくる

 ▼会場を飾る28点の花々の多くには、糸が引けなくなった繭や、製糸の途中でできる副産物が使われ、それが独特の存在感を生んでいる。繭の新しい魅力の発信は、存続が危ぶまれる日本の蚕糸業にとっても強い味方である。