▼〈高崎市の丘の上には、コンクリート造りの巨大な観音像が、雲をつくばかりにそびえています。(中略)気球は観音さまのお顔をなで、胸をこすって、黒い怪鳥のように、地面へと舞いくだってきました〉

 ▼作家、江戸川乱歩の『少年探偵団』(ポプラ社)には、白衣観音が登場する。東京から大胆にも気球で逃走した怪人二十面相だが、ガス漏れで気球の高度が下がり観音像に接触して落下するという設定

 ▼『少年倶楽部』にこの作品が連載されたのは1937年1~12月。白衣観音は36年10月に開眼供養されたばかりで、乱歩は当時世界最大とされた41・8メートルの観音像を早速作品の舞台に使った

 ▼観音像の原型を作ったのは伊勢崎市生まれの彫刻家、森村酉三。乱歩とは当時暮らしていた東京・池袋で隣同士であり、乱歩が3歳年上という同世代の気安さから観音像のことを伝えていたのだろう

 ▼名探偵、明智小五郎が活躍するシリーズは絶大な人気を集めたが、太平洋戦争へと向かう流れの中で乱歩の作品は反軍国主義として検閲対象に。旧作の大半も絶版とされ、不遇の時代を迎える

 ▼きょう28日は乱歩忌。日本で探偵小説という分野を切り開いた作家が没して50年になる。戦争が創造者に与えた不条理を顧みる時、言論はもとより出版や表現の自由が保障された社会を守らなければと強く思う。