▼作家の大江健三郎さんが、旧境町の島小学校(現・伊勢崎境島小)を訪れたのは1962年、27歳のときだった

 ▼玉村町出身の教育者で歌人の斎藤喜博さん(1911~81年)が、校長として実践していた「島小教育」を参観するためで、その模様を「未来につながる教室」と題し雑誌に発表した(講談社文芸文庫『厳粛な綱渡り』収録)

 ▼〈この小さな小学校の奇蹟(きせき)にみちた教室に、二日間しかかよわなかったけれども、(略)小学生たちの本当の新しさには、ほとんど圧倒される思いだった〉

 ▼子どもたちのなかにある可能性を引き出し、広げる授業に取り組んだ斎藤さんの教育理念と、教室での先生と児童の自由で個性的なコミュニケーションを見事に伝えている

 ▼のちにノーベル賞を受ける作家の、確かな目がそこにある。斎藤さんも高く評価し、こう受け止めた。〈日本の未来をつくる作家に、島小の現実をみておいてもらえたということをしあわせに思った〉(「島小物語」)

 ▼そんな輝かしい歴史をもち、世界文化遺産の構成資産、田島弥平旧宅のすぐ近くに位置する島小が、児童数の減少で統廃合されることになった。深刻な少子化を受けた苦渋の選択だったのだろうが、開校から142年の足跡を思うと残念だ。せめて、理想を追い求めた先人の精神を継承する場として活用できないか。