▼〈それはいつも膨大な容積で、独占的な形で、曝(さら)け出しの肌で、そして頂にはいつも薄い煙を吐いていた〉〈おそらく浅間山ほど芸術の対象になった山もないだろう〉

 ▼作家で登山家の深田久弥さんは、『日本百名山』で浅間山を取り上げ、伊勢物語の歌をはじめ、芭蕉の句、島崎藤村の詩や梅原龍三郎の油絵を挙げた

 ▼この山に引き付けられ、研究をライフワークにした人物がいる。前橋市立図書館長などを務めた郷土史家の萩原進さん(1913~97年)である

 ▼長野原町応桑に生まれ、浅間山の噴煙を間近で見て育った萩原さんは、10代で天明の大噴火に関わる史料を集め始め、群馬師範時代には論文を発表。42年、28歳で出した『浅間山風土記』が最初の本格的な著作となった

 ▼以後も〈牛歩の史料集め〉を続け、その集大成である『浅間山天明噴火史料集成』(全5巻)の最終巻が完成したのは、83歳で亡くなる2年前のことだった。研究の姿勢から伝わってくるのは、郷里への深い愛情と、時に大災害をもたらす自然への畏怖の念だ

 ▼浅間山でごく小規模な噴火が起きた。6年ぶり。火山性地震は多い状態が続くが、降灰以外に被害の情報はなく、農作物にも影響は 確認されていないという。人々の心を揺さぶってきた名山が、もう一つの側面をみせた。沈静化することを願うばかりだ。