書籍を手に、「引き続き真相解明に向けた活動をしていきたい」と話す矢島祥吉さん(左)と妻の晶子さん

 大阪市西成区の木津川で2009年11月、群馬県高崎市出身の医師、矢島祥子さん=当時(34)=の水死体が見つかった事案を巡り、ジャーナリストの大山勝男さん(68)=神戸市=が「釜ケ崎に寄り添ったさっちゃんの聴診器」(アメージング出版)を出版した。地域住民に慕われつつ行方不明となり、亡くなったことを掘り下げる内容。高崎市で暮らす矢島さんの両親は殺害の可能性を含めて真相解明を求めており、「本が出版されたことで娘のことを多くの人に知ってもらい、解決につながる手掛かりが出てくれば」と強く願っている。

 矢島さんは、木津川の千本松渡船場で水死体で発見された。大阪府警は当初、自殺の可能性が高いとしていたが、12年に矢島さんの両親が「何者かに殺された可能性が高い」として、容疑者不詳のまま殺人と死体遺棄容疑の告訴状を西成署に提出。同署は受理し、死体遺棄の疑いについて容疑者不詳とする捜査結果を大阪地検に送付した。同容疑については同年に時効が成立した。

 一方、昨年3月の府議会本会議で、府警の井上一志本部長は「『犯罪の疑いあり』と考え、捜査しているが、『犯罪である』と明確に断定できる状況に至っておらず、事件と事故の両方から捜査している」と答弁している。

 大山さんはこの事案への取材活動を通じ、「矢島さんが西成の人たちになぜこんなに優しくなれたのかが気になった」と言う。継続的に取材し、矢島さんの半生記としてまとめた。「矢島さんが(西成区)釜ケ崎の人に寄り添う熱い思いを持っていたことを、多くの人に知ってもらいたい」と話している。

 同書(四六判205ページ、1595円)には、矢島さんが路上生活者らの治療に当たり「さっちゃん先生」と慕われていたことや、突然行方不明となり水死体で見つかった事案の詳細を記した。また、自殺と断定するには不審な点があることを調査した内容も盛り込んだ。

 事件に巻き込まれた可能性が高いとして、ともに医師で矢島さんの父、祥吉さん(77)と母の晶子さん(77)らは現在も、大阪でのビラ配りなど情報提供を呼び掛ける活動をしている。

 祥吉さんは「多くの人から娘は患者に親身になって治療に当たっていたと聞き、遺体の状況からも私たち家族は一貫して自殺ではないと言い続けてきた。警察には刑事事件捜査の疑問点を明らかにして、引き続き真相究明に努めてほしい」としている。