▼旅人を乗せた渡し舟、大量の荷物を積んだ運搬船―。かつて川は物流の大動脈だった。上州と江戸を結ぶ利根川水系は水運が盛んで、川筋には渡し場や河岸が設けられ、隆盛を極めたという

 ▼中山道の宿場町、高崎市倉賀野町は水陸の物流拠点として栄えた。大きな船がひっきりなしに行き来し、烏川の水運を支えた倉賀野河岸。江戸へ運ばれるコメの集積地でもあり、河岸問屋が軒を連ねた

 ▼同じ烏川の流域で暮らす人々の交通の足として親しまれた渡し舟が駅名となった「佐野のわたし駅」が22日に開業する。上信電鉄の南高崎―根小屋間に位置。周辺は宅地開発が進み、通勤、通学客らの利用が見込まれる

 ▼出来上がった駅舎は和の雰囲気が漂う。名称とともに公募で選んだ駅名標は電気機関車「デキ」をデザインし、入場門は「渡し舟」をイメージ。コンクリート製のプラットホームは木目調に仕上げた

 ▼立ち寄ってみたいスポットもあり、駅近くには「いざ鎌倉」で知られる能の演目「鉢木」に縁のある常世神社、烏川を見下ろす街道沿いには万葉集に詠まれた「佐野の舟橋」の歌碑が建つ

 ▼“水上の幹線”は明治時代に入って鉄路が敷かれ、いつしか衰退していった。沿線に富岡製糸場があり、世界遺産効果で観光鉄道の役割も担う路線にできた新たな要衝が「佐野の渡し」の歴史を伝えていく。