▼秋の季語「月」で思い浮かぶ俳句に〈盗人に取り残されし窓の月〉がある。作者は越後の禅僧、良寛。清貧に生きた僧の人となりがしのばれ、夜空に皓々(こうこう)と輝く月が眼前に浮かぶような一句だ

 ▼良寛が住む庵(いおり)に泥棒が入った。中を見渡してもめぼしいものがない。盗人に気づいた庵主(あんしゅ)が寝返りを打つと、泥棒は庵主が寝ていた布団を盗んで去っていった。起き上がってみると、窓の外に月が輝いていた―

 ▼持ち去ったのは布団ではなく、座布団、あるいは身に着けていた着物との説もある。いずれも持ち去るべきものがない泥棒に良寛が心を痛め、与えたとしている

 ▼6日は「十三夜」だった。東海・関東地方を直撃した台風は被災地に「後の月」を楽しむどころではない爪痕を残したが、満月からいくらか欠けた白い月は台風一過ゆえに明るさが際立っていた

 ▼その月が今夜、赤銅色に変わる。太陽と地球、月が一直線に並び、満月が地球の影にすっぽり入る皆既月食が起きるためだ。皆既食の月が真っ暗にならないのは、太陽の光が地球の大気で散乱、屈折してかすかに赤い光が届くためという

 ▼欠け始めから満月に戻るまで3時間余。月のそばに普段探すのが難しい天王星も双眼鏡で見ることができる。皓々と輝いていたであろう〈窓の月〉とは趣の異なる赤銅色の月を今夜は楽しみたい。