▼〈ふるさとの駅には/優しい母のにおいがする/旅から帰ってくると/そのふところに 抱かれたくなる〉

 ▼上信電鉄上州一ノ宮駅のホーム端に詩碑がある。刻まれているのは富岡市の詩人、古典文学者、鈴木比呂志さん(1921~2001年)の作品である。駅の近くに住む鈴木さんが、地元の風物を歌った詩を筆で書き、待合室に掲げるようになったのは昭和30年代半ばから

 ▼定期的に新しい詩に替えられるのを楽しみに待つファンも多かった。そのなかの一編が、20年の節目に碑となった。詩人の郷土に寄せる温かい心が伝わってくる

 ▼富岡製糸場と絹産業遺産群の世界文化遺産登録を受け、県立土屋文明記念文学館で今月から始まった「富岡ゆかりの文学者」展に、〈磧(かわら)を歩いていると/小石の美しさに引かれる(略)〉という鈴木さん直筆の詩色紙があった
 ▼詩碑ともつながる言葉に触れ、思い出したのは、「ふるさとの町」という作品である。〈この町ほど美しいと感じた町はほかにない/(略)枯桑(かれぐわ)と葱(ねぎ)と 麦の芽が支える冬畑と/山河の美しさが/私の中で(略)いつまでも/消えない絵になっている〉(詩集『墨絵の杉』)

 ▼上州一ノ宮駅では、鈴木さんの思いを引き継ぐ地元の人が、待合室に俳句を掲げたり、生け花を飾る活動を続けている。美しい町は今も、大切に守られている。