▼「大寒入、冬がいよいよ真剣になる」と種田山頭火は日記につづった。きのうはその「大寒」だった。一年で最も寒さが厳しい時季だ。真剣にならず気を緩めてほしいが、自然の営みではどうにもならない

 ▼大寒の初候「款冬華(ふきのはなさく)」(フキノトウがつぼみを出す)の通り、厳寒の中にも早春への歩みがうかがえる時季でもある。徐々にではあるが、着実に強まっているはずの日の光を感じ取ってみたい

 ▼大寒といえばこの行事だ。長野原町・川原湯温泉の奇祭「湯かけ祭り」を、二十数年ぶりに見物した。温泉街のシンボルである共同浴場「王湯」を会場にしての開催はことしで最後と聞いて出かけた

 ▼祭り開始の午前5時はまだ暗く、足元から寒さが上ってくる。赤白に分かれた若者らがたたきつけるように浴びせ合う湯は、氷点下10度近い冷気に飛び散って、周辺はたちまち白い湯煙に包まれた

 ▼八ツ場ダム建設により、川原湯温泉街が水没予定地と呼ばれて、どれほど長い年月が過ぎただろう。代替地に新たな共同浴場「王湯会館」が建設中で、10月にはダムの本体工事も始まる見通しとなっている

 ▼変わらぬ祭りの光景が繰り広げられ、何となく安堵(あんど)感を覚えた。町の姿は変貌し、離れていった人も多い。だが、伝統の湯しぶきは地域の結束の象徴でもあり、祭りが続く限り“古里”は変わらずそこにある。