▼高く澄んだ歌声の〝フォークの女王〟といえば、米国のジョーン・バエズ。『ドンナ・ドンナ』や『朝日のあたる家』などの代表作で知られるが、黒人公民権運動の象徴となった『ウィ・シャル・オーバーカム(勝利を我等〈われら〉に)』も忘れ難い

 ▼1963年8月28日。黒人の権利を求める公民権運動の盛り上がりを背景に、首都ワシントンで人種差別撤廃を訴える大行進が行われ、この歌は20万人以上といわれる参加者の心を一つにした

 ▼ワシントン大行進と呼ばれる行進はまた、当時34歳だった黒人指導者のマーチン・ルーサー・キング牧師による名演説を生んだことで米国史に刻まれている

 ▼牧師は「私には夢がある」の文句を繰り返しながら、非暴力による人種間融和の実現を呼びかけた。この演説は黒人差別を禁じた翌64年の公民権法成立の大きな推進力となった

 ▼それから半世紀。差別との闘いはなお続く。その意味で牧師の夢は実現途上にあるといえるが、大行進当時、黒人大統領の誕生という新時代が到来するとは誰が予測できたか。それを思えば、徐々にだが実現に向けて動いていることを感じる

 ▼牧師が白人の人種差別主義者に暗殺されてから45年がたつ。信念によって「絶望の山から希望の石を切り出すことができる」という演説の一節は人種、国、時代を超えて、心に響く。