▼前橋市粕川町の詩人、真下章さん(84)が10年間にわたり文化誌「上州風」に連載した木版画の原画とエッセーを展示する「いろはにこんぺと 真下章の仕事」(前橋市・広瀬川美術館)をゆっくり見ることができた

 ▼埴輪(はにわ)や金網の中のウサギ、羽化する瞬間のセミ、野の花や動物、昆虫など身近なものを描いた木版画の素朴で温かな表現のもとにある、人間社会への痛烈な批判が伝わってきた

 ▼10代の終わりごろ萩原朔太郎の作品に衝撃を受け詩作を始めたが、農業に専念するため断念。養豚業を広げていって16年の空白ののち、再開した。何年かして、毎日顔を合わせる豚を素材にした詩を書き始めた

 ▼豚に自分と共通する部分を感じながら、食肉とする場に渡す日々のなかで、「胸にこみ上げてくるどうにもならない思い」を言葉にした。豚を「神サマ」と呼ぶ散文詩を収めた第2詩集『神サマの夜』(1987年)で第38回H氏賞を受けた

 ▼たくさんの〝豚飼いの詩〟を書きながら、独学で始めたという木版画にも、人間の在り方を問う〈どうにもならない思い〉が込められている

 ▼展示されている木版画に重ねたエッセー「お先にどうぞ」に、こんな言葉があった。〈ただ限りなく進化を遂げつづける文明社会に向けて、とりあえず「お先にどうぞ」と、手を振ることにも吝か(やぶさか)ではない〉