▼画家の熊谷守一は76歳のときに軽い脳卒中を患い、外出を控えるようになった。小さな庭が世界の全て。「アリは左の2番目の足から歩き出す」。何年も観察し続け、歩き方の法則を見つけた

 ▼たくさんの鳥を飼い、それを狙う猫がいつの間にか居着いてしまった。動植物をじっくりながめ、特徴を捉えた。輪郭線を塗り残し、色や形を単純化した「モリカズ様式」は70歳を過ぎて生まれた

 ▼遠いフランスにも遅咲きの芸術家がいた。県立館林美術館で大規模な回顧展が開かれている彫刻家フランソワ・ポンポン(1855~1933年)である

 ▼墓石を彫る仕事をしながら、美術学校の夜間授業に通った。建築装飾や彫刻家の下彫りで生活を支え、人物像を発表したが認められなかった。35歳から「近代彫刻の父」と称されるオーギュスト・ロダンの工房で5年間働き、彫刻の本質を学んだ

 ▼動物像を作り始めたのは50歳を過ぎてから。動物園に足しげく通うようになると、姿を見つけた動物が近寄ってくるようになった。歩く動きと生命感を静かな形の中に凝縮した「シロクマ」で評価されたときは67歳になっていた

 ▼妻は成功を見届けることなくその前年に亡くなった。ポンポンは塔のような墓を建て、その上にコンドルの像を飾った。78歳を目前にして亡くなったポンポンはコンドル像に見守られながら妻と共に眠っている。展覧会は26日まで。