▼戦前から戦後の復興、高度経済成長期に至るまでの県都をとらえた写真集『前橋市の昭和』(いき出版)のページをめくっていると、一枚の写真に引きつけられた

 ▼半世紀ほど前の、まだ舗装されていない道路を撮影したものだ。小さいころ、ここを毎日のように歩いた記憶や、旧友たちの懐かしい顔が次々と浮かんできた

 ▼今はもうない製糸工場の煙突があちこちに立つ町並みの遠景や、にぎわう商店街、緑道が整備される前の広瀬川沿いのたたずまい…。そんな過去の風景写真が私たちの心を揺さぶるのは、言葉とは異なる形で、そこには映っていないたくさんの物語を伝えてくれるからだろう

 ▼見ているうち、心地よさに時のたつのを忘れていた。上毛新聞創刊125周年記念事業「思い出の風景~探そう!心のふるさと~」第4回中毛編で大賞に選ばれた「花びらのジュウタン」である

 ▼前橋市新堀町の田中五男さん(70)が、旧宮城村にある千本桜の落花盛んな時季、花びらで埋まった道を傘をさして歩く夫婦の姿をとらえた

 ▼まわりを囲む木々、カーブを描く道、そして舞い散る花びら一つ一つが息づいている。田中さんの作品をはじめ入賞・入選作125点は前橋プラザ元気21で、表彰式が行われるきょう23日まで展示される。写真が静かに語りかけてくれる声に耳を傾けたい。