▼見慣れた商店街や郊外の水田の風景を無意識のうちに思い浮かべていることがある。当たり前の風景が、どれほど大切なものか。2年前のきょう発生した東日本大震災以後、その思いは日を追って強くなっている

 ▼〈この国で忘れられ、粗末にしかあつかわれてこなかったのは、その自然のうつくしさの、文字通りの有り難さです〉。福島県出身の詩人、長田弘さんが新著『なつかしい時間』(岩波新書)でつづる自然の風景への思いにうなずかされた

 ▼長田さんは、日々を確かなものにするのが〈風景の感受〉であり、風景のなかで思い、考えることが〈生き方の姿勢〉をつくっているという

 ▼地震と津波で家を、まち全体を破壊され、原発事故により生まれ育った土地から避難を余儀なくされた被災者の多くは、その風景を見ることができなくなったままだ

 ▼新島襄の妻、八重を主人公とするNHK大河ドラマ「八重の桜」で会津の田園風景が描かれるたびに心を揺さぶられる。それが、かけがえのないものであることを思い知ったからだろう

 ▼〈信じがたい数の行方不明の人たちを、思い出もなくなった幻の風景のなかに打っちゃったきりにした〉。長田さんが大震災後に書いた詩「人はじぶんの名を」の一節だ。人知を超えた大災害が私たちに突きつけた数々の警告をもう一度反すうしたい。